いてやっていると思っている

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    あおなが、中学校の正規教諭として働いていたころのこと。

    あおなは夫の両親と同居しながら、2人の子どもの子育てをしていた。

    二男が生まれていたのだ。

    理由もわからず、夫から罵声を浴びる日々が続いていた。

    あおなが夫から何度か言われて、意味がわからなかったのが、

    「お前、いてやっていると思っているだろう。」

    ということばだった。



    夫の実家はいわゆる「いなか」である。

    一方、あおなは都会育ち。

    「わたしって、都会の出身だけど、いなかに嫁いであげたのよ。」

    そういう恩着せがましい態度があおなのどこかにあったのだろうか。



    「いてやっていると思っているだろう。」

    と言われたとき、

    「そんなこと思っていません。」

    とあおなは答えた(と思う)。

    しかし、複雑だといわれる人間の心。

    (わたしの心のどこかに『いてやっている。』という気持ちがあるのかしら?)

    と自問せずにはいられなかった。







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    奥様ボランティア

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      あおなが勤める高齢者センターには、毎日2〜3人の人たちが、ボランティアとして来てくださる。

      富山さんもその1人だ。

      お年は、80歳以上だが、いつもきれいな服装をして、ざあます言葉。

      てっきりいい家の奥様なのだろうと思っていた。

      元気な富山さんだが、年には勝てず、ヘルパーが家事援助に行くことになった。



      ヘルパーステーションで、上司さんとヘルパー1さんが話している。

      上司さん、かなり興奮している。

      上司「わたしと、ヘルパー2さんで初回訪問した時、富山さんたら、自分の家の台所を見せて、

      『わたくし、こんな狭い台所、見たことございませんのよ。』

      て言うのよ。

      ヘルパー2さん、目を白黒させちゃって・・・。」

      ヘルパー1「アパートの広さはどのくらいなんですか?」

      上司「2Kってとこね。

      わたしが、

      『いえいえ、私なんか一間に住でいるんですよ。

      それに比べれば、広いですよ。』って言ったのよ。

      そしたら、それに驚いたらしくて、ケアマネさんに、

      『うちに来るヘルパーさんの中に、一間の家に住んでいる人がいらっしゃるのよ。』

      って、言ったんだってー。

      今月はヘルパー1さんにはいってもらうけど、そのうちヘルパー交替するから。

      あんなプライドが高い人じゃ、ヘルパー3さんくらいパワフルな人じゃないと、たちうちできないわ。



      上司さんが話すことをきいていると、富山さんは、かつては大豪邸に住む奥様だった。

      夫の仕事で、ヨーロッパに一年のうち何か月も滞在するという生活をしてきた。

      しかし、諸事情で家や財産を失い、家族にも死なれ、今はアパートで独り暮らしをしているらしい。



      上司さんは、ヘルパーの性格を把握して派遣先を決めているみたいだ。

      あおなは、今までそれに気づいていなかったが・・・。







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      菊江喜久枝さん

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        デイサービスのお客様は、みな上履きをはいている。

        小学校のように、上履きにはマジックで黒々と名前が書かれているものが多い。



        朝、デイサービスの手伝いをしていた時のこと。

        その日は、ヘルパー1さんもあおなとデイサービスにいた。

        ヘルパー1さん「菊江さん、上履きお持ちしました…。」

        菊江さん「ありがとう。」(と上履きをはく。)

        ヘルパー1さん「えっ!

        すごーい・・・。

        キクエキクエさんっておっしゃるんですね。

        なんで名前が2回も書いてあるのかと思ったぁ。

        (声を低めて)ねっ、あおなさん。見て。」



        菊江さんのうわばきには、姓名がカタカナで、

        「キクエ キクエ」と書いてあった。



        あおな「えっ、ほんとですね。

        (なんて言おうかと、必死で考えて)

        喜久枝さんは、菊江さんという方とぐうぜん結婚されたんですね。」

        ヘルパー1さん「・・・。

        菊江さん、変なこと言ってごめんね。」



        ヘルパー1さんが言う「変なこと」を言った主体は、あおなである。

        あおなには、自分の言ったことがなんで「変」なのか、今でもよくわからない。

        それと、この場合、何と言ったら、ヘルパーとして正解なのかも・・・。

        (どなたかおわかりだったら、お教え下さい。)





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        愛されること

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          あおなは、大学のサークルで夫と知り合った。

          若者の集まりであるから、よくカップルができたり、別れたりしていた。



          ある男性は、今までつきあっていた女性と別れるとき、一切連絡を取らなくなった。

          女性の方は、別れるつもりなどなく、サークル活動で会えたとき、そばに行って話しかけた。

          その時、男性は、

          「うるせえんだよぉ!

          こっちに来るな!」

          と女性に言ったそうだ。

          その場に居合わせた人が、

          「かわいそうで見ていられなかった。」

          と、あおなに語った。



          今のあおなには、その男性の態度が正直なものであることがわかる。

          女性に余計な期待を持たせず、自分が悪者になったのだ。

          誠意があるとも言えるのではないか。



          あおなは、6年間の交際の末、夫と結婚した。

          交際を始めたころは楽しかったのだと思う。

          しかし、いつごろからか、夫との関係は変容していた。

          「修復しなければならないもの」になっていた。



          あおなは、日頃から夫に

          「友達が少ない。」

          「一般常識がない。」

          などと注意を受けていた。

          (夫の注意は、非常に的確だった。)



          あおなも、

          (つきあうってこういうことなのかな?)と不思議に思い、

          「私のこと、どう思ってるの?」

          と何度かたずねてみた。

          「愛している。」

          と夫はいつも言った。

          「まだ、入籍していないから、恥ずかしいんだ。」

          (そうなんだ。

          じゃあ、入籍すれば普通に外出したりできるようになるんだ。)



          当時「デート」というのは、あおなが夫のアパートへ行き、掃除をすることだった。

          夫は感謝するどころか、汚れのとりきれないところを見つけては、いやみを言った。



          「愛する」というのは、相手に対して何かを「つかう」こと。

          それは、時間かもしれないし、お金かもしれないし、気持ちかもしれない。

          相手が自分に対し、なにも「つかって」くれないとき、あなたは愛されてはいないのです。






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          3度目の教員採用試験受験

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            小・中・高等学校の中で、小学校が1番勤務が楽だ。

            主婦であり、1歳児の母親である自分でも、小学校なら務まるだろうと考え、小学校教員採用試験を受けた。

            しかし、配属は中学校。

            中学校は生徒指導が小学校、高校に比べ難しい。

            また、部活動の指導もある。

            あおなは、家事一切と舅の弁当作りまでしていた。

            (途中から弁当作りは姑に交替してもらった。)

            教材研究(授業の下調べ)をする余裕はなかった。

            授業に行く途中、廊下で教科書をちらっと見て、次の授業でやることを考えた。



            夫のフォローはまったくなかった。

            結婚前から、あおなは夫からの暴言をあびていた。

            この頃はそれがエスカレートし、話しかけただけで怒声が返ってくるようになっていた。



            臨時の職員会議や学年会があると、あおなは校内の公衆電話から、自宅に、

            「すみません。遅くなります。」

            と電話していた。

            あおなが電話していることに、誰か気づいたのだろうか?

            「あおな先生、頭がいいんだから、高校の先生になったら?」

            「高校は楽らしいよ。」

            あおなは、複数の教員から、同じことを勧められるようになった。



            あおなは、思いきって高等学校教員採用試験を受けることにした。

            夫に相談すると、

            「家の近くにある私立○○女子高等学校も受けてみろ。」

            と、布団の中からいわれた。



            学校の仕事、家事、育児と休む間もないあおな。

            それにひきかえ夫は、会社に行く以外はいつも布団の中にいるようになっていた。





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            2度目の教員採用試験受験

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              あおなが初めて教員採用試験を受けたのは、大学4年のとき。

              合格でき、小学校教員になれた。

              その後、結婚、夫の転勤を機に退職。

              長男も生まれた。

              そして、夫の両親の家に同居するようになった。



              事情があり、あおなはもう1度、教員として働きたいと考えるようになっていた。

              事情というのは、夫の母(あおなにとっては姑)の暴言である。



              20数年後、ホームヘルパーになって、利用者さんから暴言を浴びせられるようになるが、それは仕事上でのこと。

              お給料をもらえるうえでのことである。

              それにその利用者さんは認知症。



              姑は当時50代前半だった。

              もちろん認知症ではない。

              その姑から、

              「私の通帳から、勝手にお金を引き出した。」

              「あんた、私のことばかにしたねぇ…。」

              などと、日常的に言われるようになった。

              もちろん、夫に相談した。

              しかし、夫はなにもしてくれない。

              実家とは、夫との結婚以来疎遠になっていて、相談できる状態ではなかった。



              自分1人で考えた結論が、

              「もう1度働こう。

              お姑さんと距離をとろう。」

              というものだった。

              あおなは、その時住んでいた○○県の小学校教員採用試験を受けた。

              合格して配属されたのは中学校だった。



              あなたの周りに、親身になって相談できる人はいますか?

              もしいないなら、そこはあなたにとっているべき場所でないかもしれません。

              自分1人で悩んだり、考えたりしてもいいことはありません。

              あおなはプライドを捨てることができませんでした。

              プライドは無用です。

              頼れるところがあったら頼りましょう。




              (あおなの場合、実家に子どもを連れて戻るのが最良の策だったと思う。

              自分を客観視できないあおなにはわからなかったのだが・・・。)






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              50歳でメイクを習う。

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                あおなは、50歳のとき、メイクアップを教える教室へ行った。

                それまでも化粧はしていたが、自己流だった。

                実はどうやって化粧するか知らなかったのだ。

                あおなが行ったのは、かづきれいこのサロンである。

                それまでも、かづきれいこの本を読んだり、生協で化粧品を注文して使ったことはあった。

                本には、劇的に変わるように書かれているが、自分でやってもうまくできなかった。



                サロンへ行ってみてわかったが、あおなのようなメイク初心者には、本やDVDだけでは無理がある。

                サロンは少人数なので、手取り足取り教えてもらえる。

                4〜5人が定員らしいが、出席者があおな1人で、まさに個別指導だったこともある。



                各地にメイク教室はあると思うので、かづきれいこにこだわらず、習いに行くのもひとつの手だと思う。

                その時は、講演会方式ではなく、少人数で教えてくれるところを選んでください。





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                悪口を書いた手紙 その3

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                  あおなは、水津様が書いたハガキのことを深刻に受け止めていなかった。

                  しかし、ヘルパー2さんは驚き、他のヘルパーに、

                  「水津さんが、あおなさんについて嘘八百を書いたハガキを、あおなさん本人に届けさせた。」と相談したらしい。



                  翌週、ヘルパー休憩室で。

                  ヘルパー3さん「あおなさん、自分の悪口が書かれたはがきを、和田医院まで届けたんですって?

                  なんで、そんなことしなきゃいけないんですか?」

                  あおな「・・・。ハガキをポストに入れてって頼まれることがあるけど、それと同じじゃないの?」

                  ヘルパー3さん「私だったら、持っていかないけど。

                  私なら、ヘルパーステーションまで持って帰ってきて、上司さんとケアマネさんに見せます。」

                  ヘルパー4さん「和田医院の先生だって、水津さんが認知症だってこと知ってるんでしょう?

                  手紙の内容を本気にするわけないと思うよ。

                  私なら届けるな。

                  そのうえで、上司さんに話すと思う。」

                  あおな「・・・。」



                  たとえ、それを書いたのが認知症の人であっても、「自分の悪口を書かれること」に対し、他のヘルパーさんは敏感なんだな。

                  それは、「自尊心が高い」ことかもしれない。

                  あおなは、水津さんに言われたとおり自分の悪口が書かれたはがきを届けた。

                  上司さんに伝えるなんて考えつきもしなかった。



                  小・中・高校時代といじめを受けていたあおな。

                  悪口を言われることは日常茶飯事だった。

                  それで、悪口を言われることに慣れてしまったのだろうか?

                  自尊心が低くなってしまったのだろうか?





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                  悪口を書いた手紙 その2

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                    ヘルパー1さんの都合が悪くなり、あおなは、ヘルパー2さんと水津さんを訪問するようになった。

                    ヘルパー2さんは、ヘルパーの資格をとったばかり。

                    仕事を始めて、まだ1カ月だ。



                    掃除が終わり、あおなとヘルパー2さんは買い物代行に行くことになった。

                    水津さんは買い物のメモとともに、切手を貼っていないハガキをあおなに手渡した。

                    水津様「このハガキを和田医院の郵便受けに入れて。

                    50円切手貼るのもったいないから。」



                    ヘルパーの仕事の中に、郵便物を投函したり、郵便局から小包を送ったりすることも含まれる。

                    和田医院は水津さんの家から50メートルくらいしか離れていない。

                    郵便ポストに入れるのも、個人宅の郵便受けに入れるのも同じことだろうと、あおなは気軽にハガキを受け取った。



                    水津さんは、父親も亡き夫も医師だったことを自慢にしている。

                    市内の医師は、みな自分の友人か後輩のように思っているらしい。

                    和田医院へ向かう道すがら、水津さんのハガキの文面から、「ヘルパー」という文字があおなの目に飛び込んできた。

                    気になって文面を読んでみると、

                    「ヘルパーに風呂の温度を15℃に下げられました。

                    それ以来、5か所の医院に通い苦しんでいます。

                    ヘルパーをやめさせたい。」

                    と書かれていた。

                    あおな(笑って)「やだーっ! これ、私のことじゃない!」

                    ヘルパー2さん(ハガキを読み)「ひどい・・・。

                    あおなさん、一生懸命やっているのに・・・。」



                    あおなは、和田医院の郵便受けにハガキを入れ、買い物をした。

                    水津さんは認知症。

                    デイサービスの職員に対しても、

                    ドロボー!

                    学歴がないくせに!

                    と大声をはりあげる方だ。

                    あおなが水津さんを「水風呂に入れ、かぜをひかせた。」なんてことを誰も本気にするわけがない。






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                    悪口を書いた手紙 その1

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                      認知症の水津様の家へ、ヘルパー1さんとうかがっている。

                      水津様には、物取られ妄想があるので、ヘルパー2人体制である。

                      「ヘルパーが私のものを盗んだ。」と言われたとしても、

                      「そんなことしてません。見ていましたよ。」と言えるようにするためである。

                      水津様は、他のヘルパーに暴力をふるったりする方。

                      だが、あおなとヘルパー1さんのことは気にいってくださり、今まで問題は起きていなかった。



                      1か月前、水津様の家へうかがうと、

                      水津様「風呂にお湯が入れられない。

                      お湯を入れて。」

                      あおな(風呂に入るのは、夜のはず。今湯はりをしたら、さめてしまう。)

                      「水津さん、追いだきできますか。」

                      水津様「できるよ。」

                      あおなが、風呂場の給湯器を見ると、「エラー」と表示されている。

                      電源を入れなおすと、給湯温度60℃と表示された。

                      あおなは、40℃に温度を下げ、湯はりをした。



                      「できるよ。」とはおっしゃったが、水津様は追いだきができなかったようだ。

                      その夜、すっかり冷めた風呂に入り、風邪をひいてしまったらしい。



                      水津様は、あおなの勤務先のデイサービスにも週4日いらしている。

                      高齢者センターであおなを見かけると、

                      水津様「あんたのせいで、私、風邪ひかされた!

                      あおな 「どうかしましたか?」

                      水津様「あんた、風呂の温度変えたでしょ。

                      うちは40年来、風呂は60℃で入れてるのよ!・・・」

                      とどなるようになった。






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