あおなは、相手の頼みを断ることができない。
あおなは、31歳のとき、○○県の賃貸マンションに引っ越した。
あおなの部屋は4階。
同じ時期に、1階に引っ越していきたのが、佐田さんだった。
あおなと佐田さんは、年齢が同じくらい。おたがいに子どもが2人いた。
あおな (佐田さんとなかよくなれたらいいな。)
当時、男児の間で、任天堂のファミコンが大ブームだった。
あおなの家にはファミコンがあり、2歳年上の佐田さんの長男が、ファミコンをやりに毎日あおなの家に来ていた。
佐田さんの家のファミコンは壊れ、買い直すつもりはないらしかった。
佐田さんは、ほほにわりと大きいホクロがあった。
佐田さん 「ホクロをとる手術するの。」
あおな 「・・・。」
佐田さん 「違うのよ。
きれいになるためとかじゃないの。
ホクロって、皮膚ガンになることもあるから、今のうちにとろうと思って。
手術の間、0歳の長女預かってくれない。」
あおな 「いいよ。」
あおなの家では、全国紙。佐田さんの家では、地方紙をとっていた。
佐田さんは、購読している地方紙のほうが地元の情報が豊富だと、常日頃あおなに吹聴していた。
あおなは、機会があったら地方紙を読みたいと思っていた。
佐田さん 「あおなさん。地方紙読みたくない?」
あおな 「うん。」
佐田さん 「ウチ、今度3泊4日の旅行に行くの。
その間、ウチの新聞読んでいいから。
朝の間に、とりこんどいてね。」
あおな (新聞販売店に、配達を断ってもらえばいいのに。)
「うん。」
気楽に引き受けたものの、これが大変だった。
あおなには、まだ幼児がいて、あおなが部屋を出るのも嫌がる年頃だった。
朝早く、1階まで降りていくのはめんどうだった。
また、他人の家の郵便受けから、新聞を引き抜くという行為も、いやだった。
誰かに見られたら、どろぼうと思われるかもしれない。
いやだったが、
「ごめんね。できなかった。」
などといってごまかすこともできなかった。
あおなは、毎朝、律儀に、佐田さんの新聞をとりに行った。
佐田さん 「あおなさん、お米貸して。」
あおな (戦時中じゃないのに。)
「はい。」(と、ビニール袋に入れたお米を渡す。)
1年ほどして、あおなは再び引っ越すことになった。
佐田さん 「あおなさん、引っ越すんだって。
ここのマンションの大家さん、敷金返してくれないんだってね。
あおなさん、敷金いくらぐらい返してもらえるか教えてね。」
あおな (笑顔で)「うん、教えるね。」
「教えるね。」とは言ったが、あおなは教えなかった。
この時が、あおなが
初めて、他人の言うことに従わなかった瞬間だった。
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